【TechGALAの裏側】なぜVIPバンケットは豪華な設えで、「筝曲」で幕を開けるのか。北欧Slushで見た景色と、名古屋で起きた「奥田」の奇跡


TechGALAの重要な役目を担うVIP バンケット(晩餐会)

TechGALAのメインプログラムの裏側で、私が最も精魂を込めて設計したもう一つのプログラム。 それが、エスパシオ ナゴヤキャッスルで行われる完全招待制の正餐、「VIP バンケット」です。

なぜ、表のカンファレンスだけでなく、このクローズドなパーティーの場にこれほどこだわるのか。 そして、なぜその幕開けは、クリムトの世界を描いた「筝曲(そうきょく)」だったのか。

そこには、11年前の北欧での衝撃と、今日この名古屋で起きた「縁」の物語があります。

北欧Slushの「裏側」で見た、風景を変える力

時計の針を2015年に戻します。 当時、私がフィンランドのスタートアップイベント「Slush」に参加した際、表のプログラムには載っていない特別な招待状を受け取りました。日本人は二人だけ、私と私を誘ってくれた日本の最も大きな商社のヨーロッパ支社長です。

“VIP Welcoming Dinner”、場所はなんと貴族の館です。写真を貼っておきますが、1枚目は2017年。2枚目は2015年です。私はこの晩餐会に出るためにSlushに通っていました。

この晩餐会は、主催者とパートナー、政財界の重鎮、そして主要な招待者だけが集う、クローズドな晩餐会でした。 当時、私はブログにこう書き残しています。

「これからのカンファレンスは目的を多くのレイヤーに分けて、個々がその”場”に求めるものを細分化して応えるということにあると思っている。表から見ているSlushと異なる”場”もあり、だからこそ相乗効果が生まれる。」

若者たちが大きなステージでピッチを行い、ピザを片手に夢を語り合う「表」の熱狂。それも素晴らしいことです。 しかし、それだけではスタートアップエコシステムの風景は変わりません。

何より大きな投資マネーが動き、そこに大企業が誇りを持って集っていること。この晩餐会はまさにGEやFinAir、Nestle、ReaktorのCEOレベルがぞろぞろと集う場でした。

エコシステムを本気で動かし、オープンイノベーションを起こすためには、「政治力」と「経済団体の力」、「大企業の意思決定者」、「ファミリーカンパニー」、「投資される大きなお金」が必要です。かつ、その人たちが本気でスタートアップが必要だと思う場も必要です。そしてなによりそういう立場の人がノブレスオブリュージュが大切であることも共有する場。

地方で輩出されるスタートアップにとって、その権力と資本との距離はあまりにも遠い。大企業にとってもTechGALAなにそれ?スタートアップがワイワイやってるやつ?地元の企業の人たちはそんな集いがあることも知らないよといった風景は作りたくなかった。

だからこそ、TechGALAには、まずはそれら資金と人が集う磁場とノブレスオブリュージュを再確認する場が必要です。

「あそこに行けば、世界が変わる出会いがある」

「いつか俺も、あっち側のテーブルに呼ばれる起業家になるんだ」

「成功とともに社会に循環させるんだ」

そんな「憧れ」と「気概」と「誇り」を醸成する装置として、そしていずれ市民で自走させるためのスポンサーメリットとして、このVIPバンケットは可能性を秘めた場だと思っています。まだ地域のスタートアップが少ない今だからこそ、その磁力の場を用意しておくことに着手しています。ちなみにこういったパーティーは自治体予算での開催は不可能です。税金をここに投入せず、スポンサー獲得の一部をスポンサーにメリットとして循環させ、その流れにスタートアップを乗せていく。緻密な設計のもと、運営のみなさんは本当に頑張ってくれました。

今年は全参加者の顔写真とプロフィールの入ったブックレットも配布しました。運営のLEOさん渾身の作です。

 

「演奏」ではなく「世界観」を。副家元との対話

そんな重要な夜。場所は名古屋城を望むエスパシオ ナゴヤキャッスル。 オープニングは伝統的な筝曲(こと)の調べで迎えることに決めました。

その打ち合わせのために、日本を代表するお琴の伝統的な流派「正派邦楽会」の奥田雅楽之一副家元に直接お会いし、打ち合わせを重ねました。たった数分の演奏のためです。 実は、正派邦楽会との個人的なお付き合いは20年近くになります。娘がこちらの道場の直門で、20年ほど師事しているのです。副家元には師範試験でもお世話になっている関係で、今回はその娘が裏方として箏曲演奏のサポートとして入ることになりました。

とにかく、最高の場に、最高の演者をお呼びしたい。 そうして対面した副家元から、いきなりこんな質問をいただきました。

「TechGALAが目指す世界観は何ですか?」 「その演奏によって、参加者の脳裏にどんな風景を描きたいのですか?」

曲目の話ではなく、本質的な「問い」が飛んできたのです。 ただ音を奏でるのではなく、TechGALAという文脈(コンテキスト)を理解し、その空間の「空気」そのものを調律しようとしてくださっている。 これこそが、一流の芸術家の仕事なのだと震えました。

クリムトを描く「譚詩曲:バラード」と、二人の「奥田」

そして決まった曲目は、「譚詩曲:バラード」。 なんと、副家元ご自身(奥田雅楽之一先生)が作曲された作品です。

この曲は、画家のグスタフ・クリムト(Klimt)が描く、あの黄金と官能、そして装飾的な美の世界をお琴で表現した楽曲だといいます。先生がヨーロッパ周遊中に出会ったクリムトの壁画の衝撃。

日本の伝統楽器である「お琴」で、西洋の「クリムト」を描く。 それはまさに、ローカルな土着性とグローバルな革新性を融合させるTechGALAのテーマそのものです。 伝統を守りながら、新しい解釈で世界を再構築する。この曲以外に、開幕を告げる音色はないと確信しました。

さらに、打ち合わせの帰り際、もう一つの奇跡が判明しました。 副家元のお名前は、奥田雅楽之一(おくだ・うたのいち)先生。 私と同じ姓、「奥田」なのですが、ずっと気になっていたことを、お聞きしました。 「あの、そのお名前はどちらのご出身なのですか?」

副家元は静かに答えられました。 「これは父方の姓でしてね、名古屋の姓なのです」

「わーーーーっ」 思わず声が出て、鳥肌が立ちました。

以前も書きましたが、私の父は熱田(名古屋)のお寺に眠っています。 父の出生時の本籍地に書かれているのは三重県津市大門、この地域をルーツとする奥田家だったからこそ改葬を名古屋に決めたのですが、この地に改葬してすぐにTechGALAの話が来ました。 そして今、TechGALAの最も重要な夜を彩る方が、同じ「奥田」で、この地域にルーツを持っていること。

人の魂と、土地の魂。 ここでもまた、「土地」が人を呼んでいる。父が、あるいはこの土地の先祖たちが、このタイミングで私たちを引き合わせたとしか思えないのです。そして今日ここで伝統と革新の音色を聞く。

 

最先端のテクノロジーの祭典で、引き出物に「熊手(KUMADE)」

TechGALAのVIP バンケットは、単なる豪華なパーティーではありません。 グローバルな「戦略」と、ローカルな「魂(ソウル)」が交錯する場所です。政治家も、財界の重鎮も、ユニコーンを目指す起業家も。 クリムトの色彩を帯びた「奇跡の奥田の調べ」の中でだけは、肩書きを外した「未来の当事者」として杯を交わすことになります。静まり返る会場で細やかな琴の音色だけが響いているあの瞬間は、録画では共有できないと感じました。まさにそこに参加している方々の共鳴が広がる場。後で写真を見て驚いたのが集合写真の色合いがまさにクリムト。

感無量です。 しかし、これはゴールではなく、ここからが本当の「実装」の始まり。 Slushの貴族の館で見たあの景色を、日本の「城」で、私たちの流儀で超えていきます。本当にノブレスオブリュージュがこの地に根付くのかネットワークを重ねていきます。

そして、TechGALA VIPバンケット、閉幕。

会場を後にする皆さんの手には、少し嵩張る、奇妙な「引き出物」が握られていました。

「熊手(KUMADE)」です。

なぜこんな古臭い縁起物を? そう訝しんだ方も多かったかもしれません。

これは皆さんに手渡したかった「最新のデバイス」なのです。

祝祭は、誰のためのものか
TechGALAは「カンファレンス」ではなく「祝祭(GALA)」です。 テクノロジーの進化を、一部の特権階級だけでなく、心の底から全員で祝える社会をつくりたい。 スタートアップも、大企業も、アカデミアも。そして何の肩書きも持たない、市井の人々も。 その全員が主役として祝われる場。それがTechGALAの定義です。

祈りをかき集める「デバイス」
熊手は、かつて農作業で落ち葉や穀物をかき集めるために使われた、庶民の道具です。 それが縁起物となり、福をかき込む象徴となりました。ですが、私にとっての熊手は、祈りの「デバイス」なのです。

私がTechGALAの会期中、ずっとこの熊手を握りしめていた理由。 そして、皆さんへの引き出物にした理由。 それは、この熊手が、単なる金運や成功ではなく、“地べたで生きる人々の祈り”をかき集めるためのものだからです。

「明日はもっと良くなってほしい」 「子供たちが笑って暮らせる未来であってほしい」

皆さんにお渡ししたその熊手。 どうか、オフィスの、あるいは自宅の一番目立つ場所に飾ってください。

そして、ふとした瞬間に思い出してください。 私たちがテクノロジーを使って本当にかき集めるべきなのは、名誉やお金ではなく、その熊手の爪の先に引っかかるような、小さくて温かい「誰かの祈り」であることを。

そして、その熊手を持つこの日の私たちこそが、ノブレスオブリュージュとして、社会へ循環させていく必要があるということをメッセージに込めました。

TechGALA 2026。 狂気と祈りの祝祭に参加してくれた全ての共犯者たちへ。

心からの愛と、熊手一杯の福を込めて。

奥田浩美