日本人はデンマークを真似ても幸せになれない(後編)

日本人はデンマークを真似ても幸せになれない(後編)

【奥田浩美ブログ】

個人を尊重するということ

前回のブログで「日本人はデンマークを真似ても幸せになれない」ことに気づいたことを書きました。
それは、私自身が父親の遠距離介護で苦しんだ経験があったからかもしれません。
この国の高齢者を見ると、「ああ、うちの父もこの国の施設だったらどんな暮らしをしているんだろう…」と、常に父のことを頭に浮かべながら視察をして、常にどこか胸が苦しい視察でした。

介護施設で職員の案内時の説明で驚いたことをいくつか書いてみます。
入居者を尊重する一つの例は、入居時にそれぞれの部屋の高齢者がどういうドアの開け方を希望するか職員と話し合うということからも伺えます
厳密に言うと、デンマークでは、介護施設という概念は否定されており、老人だけが隔離される形を取らず、介護が必要な高齢者が集まる「集合住宅」という位置付けですので、特にこだわっているのかもしれません。

ドアの開け方も各自異なる

例えば1つ目の例、ドアの開け方の確認です。
1.職員がノックとともに自由にドアを開けてい良い
2.ドアをノックしたら入居者が内側から開けるまで開けちゃいけない
3. ドアをノックして10秒たっても反応がなかったら開けていい
そんな選択肢が入居者にあり、職員と取り決めます。

火災探知機の設置場所

2つ目の例は、部屋の火災探知機の場所です。
煙草は自分の部屋で吸って構わないらしく、それぞれの部屋の中でどの位置にソファを置き、そのお気に入りの場所で吸うかを聞いたら、その場所に煙探知機をつけると職員が説明していました。


抱き上げリフトのレール位置

探知機同様、抱き上げリフトのレールの位置も生活のスタイルを検証して設置されます。
高齢者を抱き起こすときに使うリフトのためのレールが各部屋に設置され、それぞれの人の生活スタイルにあわせてリフトがつけられます。日本ではスタッフが「せーの」「イチ、ニ、サン」と声を発しながら高齢者を持ち上げて下ろす力仕事が常ですが、デンマークでは法律で人力での抱き起こしが禁止されています。高齢者をベッドから車いすに移譲する際に、抱き上げる。車椅子からトイレの便座に移す時も、あるいは入浴時も同様です。法律で禁止されているのは介護職の人権を守るためだと伺いました。職員の健康=人権なわけです。

個々の郵便受けのルール

4つ目の例です。 どんな状態のお年寄りでも、施設には一人に一つずつ郵便受けが設置されています。
郵便受けが個人ごとにあることも法律で定められています。厳密に言うと、デンマークでは、介護施設という概念は否定されており、老人だけが隔離される形を取らず、介護が必要な高齢者が集まる「集合住宅」という位置付けを厳格に守っているからかもしれません。

そして郵便物の受け取りに関しては
1. 自分が郵便箱まで取りに来るか
2. 職員に依頼するか
ということを入居時に取り決めます。

異なる玄関ディスプレイ

5つ目は各部屋のドアの横にディスプレイコーナーです。その方の思い出の品などがディスプレイされていました。そこに入居されている方々の人生が詰まっているようでとても感動しました。高齢者がこれまで暮らしていた地域や国、家族、趣味のものなどがディスプレイされています。
施設によっては、部屋のドアのデザイン自体が異なる場合もあります。無機質で単色のドアを、それぞれの住人の個性を表すものに変えることにこだわっているのです。

デンマークの施設を視察していると、日常の多くのことが個人の決定に委ねられ、それを周囲が尊重し、さらには”選択肢”ではなく”フリーワード回答”的な決定項目を尊重していることに気づきます。


”自分はこうしたい”という意志をとことん尊重するということは、生き方自体もすべて自己が決めたものになるということです。

簡易のキャッシュディスペンサー

そして、施設の中には写真のような簡易のキャッシュディスペンサーがあります。
もうため息が出るほど日本の施設と異なります。
そして、ため息が出るほどのオプションが有ります。


ふたたび、父親のことを思い出しました。
ここまでの入居時の確認を日本人は喜ぶのかしら?
自分はもう何も出来ないのだから家族がきめてくれと言いそうです。
一部の人はそれらの選択肢を与えられて「もう、みんなと同じでいいです。」と言いそうです。

自分が「オリジナルであること」を尊ぶデンマーク人の気質と、自分が「同質であること」を尊びがちな日本人の気質。
一体、デンマーク人は人生の中で何倍の「自己決定」をしてくるのでしょうか。

自分がどうありたいということを日常の数分おきに決定し、それに責任を持ち、幸せと位置づける。
なんだか、何万倍も違うような気がした視察でした。


デンマーク視察シリーズの他のブログもぜひともお読みください。

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